毎回、介護にまつわる問題点やちょっと困った介護スタッフの珍行動、介護現場での珍事件などを紹介するこのコーナー。
今週は、「まるで現代のおとぎ話」という話題について紹介します。
有料老人ホームでのドラマのような出来事とは
「職場の清掃員が、実は会長だった」
「新人としてやって来たダメ社員が、実は創業者の御曹司だった」
──身分を隠すストーリーは昔からドラマや映画で定番の展開。時代劇の『水戸黄門』はその代表だ。
都内のある介護付き有料老人ホームで、それに似た事件が発生。関わった人間が一様に驚いてしまったという。
身分を隠したドラマのような展開が起こったのは…
ドラマさながらの事態が発生したのは、東京都内でもとりわけ庶民的な地域に建つ介護付き有料老人ホーム。
その施設はオープンしてまだ数年と歴史は浅く、入居者は約80人、月額費用は16万円程度。
東京23区内ではあるものの、最寄り駅からかなり遠く、周囲には畑などもあるのんびりした地域だ。
新人介護職は、人生では先輩
この有料老人ホームでドラマが起きたきっかけは、アライさんという女性がスタッフに加わったことだ。
アライさんは50代だが、介護の仕事は初めてだったため、教えを請う先輩スタッフは全員歳下。
最初はやりにくそうにしていた若手スタッフも、やがてアライさんの気さくな人柄に心を許すようになり、職場では新人でも人生では先輩のアライさんは、いつしかスタッフみんなの愚痴の聞き役になっていたという。
新人介護職にオーナーがお辞儀?!
そんなある日、施設にグループのオーナーがやって来ることになった。
施設には施設長がおり、スタッフとは顔も名前も一致する関係だが、グループのオーナーはまったく別。
「オーナーと会うのは初めて」というスタッフが大半だったが、入り口でスタッフが出迎えた時に事件は起きた。施設で働くカワノさんがいう。
「施設長を中心に職員全員がかしこまってオーナーを出迎えるなか、アライさんが『どうもご無沙汰してます』とオーナーに声をかけると、
オーナーが『アライさん、大変ご無沙汰しております』と深々とお辞儀したのです。
当然、『アライさんは何者だ?』という話になりますよね?」
オーナーとアライさんの意外な関係性とは?
話を聞けば、オーナーが恐縮するのももっともな話だった。
アライさんの夫は空手教室で地元の子どもたちを指導しており、オーナーは教え子の一人。オーナーが10代の頃にグレてしまった頃も、見捨てることなく面倒を見たのがアライさんの夫で、アライさん自身もオーナーのことはよく知っていたのだ。
アライさんがその施設で働き始めたのも偶然ではなく、
オーナーの恩師である夫から「人手が足りないようだから、手伝ってやってくれ」と言われたから。
しかしアライさん本人は「説明すると面倒なので」という理由で、仕事場ではそんな経緯は一切話さなかったのだ。
結果的に、その一件でアライさんの立場が変わることはなかったが、オーナーが新人の介護職に深々と頭を下げるシーンは強烈に印象に残ったようで、みな口々に「まるでドラマのワンシーンのようだった」と言っているのだとか。
オーナーには「職場で何か問題があったら、何でも仰って下さい」と言われたアライさんだが、「そんなことしたら、自分も周りも働きにくくてしょうがないじゃない」と、オーナーに直接意見できる権利は一切行使していないそうだ。